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Thomas Chapin / Ride

Label: A Playscape Recordings
Rec. Date: July 1995 (released in 2006)
Personnel: Thomas Chapin (as, fl), Mario Pavone (b), Michael Sarin (ds)
Chapin Thomas_199507_Ride 
1. Anima [Chapin]
2. Pet Scorpion [Chapin]
3. Night Bird Song [Chapin, Pavone]
4. Aeolus [Chapin]
5. Bad Birdie [Chapin]
6. Changes Two Tires [Chapin]
7. Ticket to Ride [Beatles]

 前回のホレス・シルバーから雰囲気がガラッと変わりますが、今回記事はサックス・フルート奏者Thomas Chapin(トーマス・チェイピン、1957-1998)のアルバムです。

 彼がレコード・デビューしたのは1980年代初頭で、1998年に白血病により41歳の若さで亡くなってしまうまでのキャリアは必ずしも長くはありませんが、その間、完全フリー・ジャズと言ってもよいような演奏から、ストレートでハードバップ然としたものまで(私は聴いていませんがライオネル・ハンプトンのバンドでの録音もあるようです)実に多くのアルバムを録音しています。

 このような彼のキャリアの中で、1990、91年に録音された「Third Force(Knitting Factory)」を皮切りに、ベースMario Pavone(マリオ・パヴォーン、「Mario Pavone Double Tenor Quartet / Ancestors」で既出)とドラムSteve Johns(スティーブ・ジョンズ)又はMichael Sarin(マイケル・サリン)と組んだピアノレス・トリオによる快作を次々に発表します。
 この三人のユニットは、下に述べるThomasのアルト・フルート奏者としての際立つ個性を楽しむには最適なフォーマットだと私は思っています。おそらく全部で5枚あるこのトリオのアルバム(その他にゲストが加わるアルバムもあります)のどれか一枚というのはなかなか難しい注文ですが、今回記事ではこれらの代表選手として、1995年に行われたオランダのジャズ・フェスティバル(North Sea Jazz Festival)でのライブ盤「Ride」を取り上げることとしました。

 単純なコード進行、或いはシンプルでモーダルなパターンが提示される曲想で、リズムやバンドの骨格はしっかりとキープされるものの、演奏そのものは極めてハードに進んでいく・・・乱暴に言ってしまうと、これがこのピアノレス・トリオのやり方です。
 それこそ時空を切り裂くようなアルトのカデンツァから、ブイブイいうベースとヤケクソ系のドラムが暴れまわるハードな"Anima"からステージが始まります。
 フリーキー・トーンを交えたパワフルなフレーズを延々と疲れを知らずに吹き続け、聴き手をうならせる彼のアルトの「熱さ」は、どこかポスト・コルトレーンの嵐が吹き荒れていた70年代ジャズを思い出させます。このような彼のアルトが持つ「破壊力」はThomas Chapinの際立つ個性でしょう。アルトのカデンツァとハードに暴れまわるリズムをバックにした強力なソロ、そしてベースとドラムの鋭いソロも聴くことができる冒頭曲は17分強の長い演奏ですが、このトリオの魅力が凝縮されたトラックと言ってよいでしょう。2,5,6曲目も、冒頭曲のパワーをそのまま維持するようなアルトが炸裂するハードな演奏が繰り広げられます。
 一方、3曲目の導入部とエンディング、それと4曲目でThomasが吹くフルートが、これまた聴かせるのです。例えばサム・リバースやローランド・カークが昔やったように、ヴォイスとフルートを重ねて吹く、と言うのでしょうか、うまく表現できませんが、正に肉声を絞り出すように吹く彼のフルートはもう一つの魅力です。特に4曲目の「ヴォイス」入りのフルートによる5分に及ぶ長いカデンツァは、彼のフルートに焦点を当てるならば、ここは最大の聴きどころです。
 アンコール・ピースなのかわかりませんが、ラストはなぜかビートルズの"Ticket to Ride"を凝っているのかベタなのかわからないような(ちょっと「アレ」な)アレンジで演奏してステージを閉じます・・・ご愛敬といったところで。

 深く理解し合った理想的なメンバー二人に支えられて、フリーキー・トーンを交えた破壊力あるアルトと肉声を絞り出すような力強いフルートが炸裂する熱いライブで、彼の孤高の個性にどっぷりと浸かるには最適なアルバムです。
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Horace Silver / The Hardbop Grandpop

Label: Impulse!
Rec. Date: February to March 1996
Personnel: Claudio Roditi (tp, flh), Steve Turre (tb), Michael Brecker (ts), Ronnie Cuber (bs), Horace Silver (p), Ron Carter (b), Lewis Nash (ds)
Silver Horace_199602_Hardbop Grandpop 
1. I Want You
2. The Hippest Cat in Hollywood
3. Gratitude
4. Hawkin'
5. I Got the Blues in Santa Cruz
6. We've Got Silver at Six
7. The Hardbop Grandpop
8. The Lady from Johannesburg
9. Serenade to a Teakettle
10. Diggin' on Dext

 なんだか小っ恥ずかしい気分ではありますが、今回は「あの」Horace Silver(ホレス・シルバー、1928-2014)が1996年(録音当時68歳)に録音したアルバムです。
 ホレス・シルバーと言えばやはり1950、60年代ということになるでしょうし、その頃のアルバムを語るのはこのblogの趣旨ではありませんのでほんの少しにしておきますが、とりわけ50年代半ば頃までの彼の瑞々しいプレイやバンドのサウンドを私は好みとしているところです・・・もちろん50年代後半からのBlue Mitchell(ブルー・ミッチェル)とJunior Cook(ジュニア・クック)がいたクインテットだって文句なしにゴキゲンですが。

 一方、1970年代以降も彼はコンスタントにリーダーアルバムをリリースしていますが、一部のファンを除いて、あまり注目されない存在になってしまった・・・少なくとも私にとってこの時代のホレス・シルバーはそのようなポジションです。手元でも「Serenade to a Soul Sister(1968年録音、Blue Note)」を最後に、70、80年代の彼のアルバムは一枚もありません。
 その後、90年代に入って「あっ、まだやってるんだ」という感じで入手した「It's Got to be Funky(1993年録音、Columbia)」が思いのほか楽しく聴けたので、彼の最後のリーダー作になってしまった「Jazz...has...a Sense of Humor(1998年録音、Verve)」までの5枚のアルバムに付き合うことになりました(本記事の最下段に本作を除く4枚のアルバムのジャケット写真を掲載)。

 今回のアルバム「The Hardbop Grandpop」は、彼が90年代に入って発表した三作目のリーダーアルバムにあたります。もちろんですが、全曲ホレス・シルバーのオリジナルが演奏されています。
 前二作(「It's Got to be Funky」と「Pencil Packin' Papa」)は6人のブラス(金管楽器)・セクションにボーカルやテナーのゲスト・ミュージシャンが加わる比較的大きな編成でしたが、本作は少し小振りになってラッパ、ボントロ、テナー、バリサクの4管にリズムの三人が加わる7人編成で、ご覧のように、ズラッと有名どころが参加しています。因みに本作の後の二枚(「A Prescription for Blues」と「Jazz...has...a Sense of Humor」)は2管フロントの「普通」のクインテット編成です。

 冒頭曲から、50、60年代の彼のアルバムで私たちが慣れ親しんだ人懐っこくてエキゾチックなメロディが飛び出してきて、CDを鳴らして最初の何十秒かで聴き手のハートを掴んでしまう・・・いつものホレス・シルバーの「手口」です。
 4管のアレンジはお世辞にも洗練されているとは言えませんが、少々アホらしいけどカッコイイ彼の世界、「ハードバップでもファンキーでもない彼のパーソナルな世界」(村上春樹のパクリです)を表現するにはピッタリだと思いますし、これも彼が50年代から続けてきたやり方です。各プレイヤーはあまり突出することなく楽しそうにソロを繋いでいて、実力者を揃えた人選もハマっています。
 私がスルーした70、80年代もきっとこんな感じでいつものホレス・スタイルを貫いてきたんだろうと思いますし、こういう音楽を前にして分析的に、或いは批判的に感想を述べるのは意味のないことでしょう。

 それともうひとつ、本作は全てインストの楽曲ですが、CDのライナーノーツには全10曲中5曲の「歌詞」が掲載されています。しかも5曲目"I Got the Blues in Santa Cruz"は丁寧にもMale VersionとFemale Versionの二種類の歌詞がついています。「オレはインストの曲でも歌詞を先に作ってそれにメロディを乗っけるんだ」みたいなことを彼が言っていたのをどこかで読んだ記憶があります。英語が流暢であれば歌詞を歌いながらCDを楽しめるというオマケまでついています・・・私には到底無理ですが。

 つまるところ、理屈抜きで楽しむ「べき」アルバムということでしょうが、「楽しい」だけでは片づけられない、それこそ彼のパーソナルな世界から浸み出る「ソウル」を感じ取ることのできるアルバムです。

「It's Got to be Funky」(1993年録音、Columbia)
Silver Horace_199302_Got to be Funky 

「Pencil Packin' Papa」(1994年録音、Columbia)
Silver Horace_199401_Pencil Papa 

「A Prescription for the Blues」(1997年録音、Impulse!)
Silver Horace_199705_Prescription 

「Jazz...has...a Sense of Humor」(1998年録音、Verve)
Silver Horace_199812_Sense of Humor

Celea, Liebman, Reisinger / Ghosts

Label: Night Bird Music
Rec. Date: March 2001
Personnel: David Liebman (ts, ss, bamboo-fl, p), Jean-Paul Celea (b), Wolfgang Reisinger (ds)
Liebman David_200103_Ghosts 
1. My Favorite Things [Richard Rogers, Oscar Hammerstein II]
2. Ugly Beauty [Thelonious Monk]
3. Riot [Herbie Hancock] / Hand Jive [Wayne Shoter]
4. Kathelin Gray [Ornette Coleman, Pat Metheny]
5. Freedom Jazz Dance [Eddie Harris]
6. Lonely Woman [Ornette Coleman]
7. Naima [John Coltrane]
8. Liebeslied [Kurt Weill]
9. Ghosts [Albert Ayler]
10. What a Wonderful World [George David Weiss, Bob Thiele]

 「David Liebman / Monk's Mood」と同じ編成、すなわちピアノレス・トリオによるアルバムです。なおジャケットにはメンバー三人の名前が並記されていますが、このblogでは便宜上David Liebmanのリーダーアルバム(カテゴリーはsax)として取り扱うこととします。

 本作は、このblogにDavid Liebmanが初登場した「Walfgang Reisinger / Refusion」の記事で少し触れたアルバムで、メンバーも「Refusion」参加のベースJean-Paul CeleaとドラムWolfgang Reisingerとの三人編成で、2001年にパリで録音されています。Jean-Paul Celeaは1951年フランス産(ベルギー或いはアルジェリア出身という情報もあるようです)、Wolfgang Reisingerは1955年オーストリア産ということで、これまで何度か取り上げていますが、リーブマンが渡欧して当地のミュージシャンと録音した数ある「単身赴任」アルバムの中の一枚です。

 本作「Ghosts」に先立ち、同じ三人のメンバーで「World View(1996年録音)」と「Missing a Page(1998年録音)」(いずれもLabel Bleu、本記事の最下段にジャケット写真を掲載)の二枚のアルバムを録音しています。この二枚は、メンバーのオリジナルを主体とした選曲で、全体的にフリーに傾くかなり「クローズド」な演奏で、中にはキラッと光るトラックはあるものの、リーブマンのファンであっても「ちぃと辛いなあ」という印象のアルバムでした。
 一方の本作「Ghosts」ですが、トラック・リストをご覧いただければわかるように、ほとんどが有名なジャズメン・オリジナルで固められており、私には縁遠いメセニー絡みの4曲目以外は、お馴染みのナンバーが並んでいます。

 最初に結論じみたことを申し上げてしまいますが、私にとってこのアルバムの最大の魅力は、何といっても1, 3, 5, 9の4曲で吹くリーブマンのテナーでしょう。
 アルバムのオープナー、コルトレーンのレパートリー"My Favorite Things"では、ベースとドラムが力強く刻むリズムに乗って、パワフルかつ密度の濃い、正に「言うことなし」のブチ切れのテナーが炸裂し、聴き手を「名盤の予感」へと一気に引きずり込みます。
 ハンコックの"Riot"(「Speak Like a Child」収録)とショーターの"Hand Jive"(「Miles Davis / Nefertiti」収録)が続けて演奏される3曲目では、冒頭曲よりは若干パワー・セーブ気味ではありますが、ここでのテナーもこれまた素晴らしい。
 お馴染みの5曲目"Freedom Jazz Dance"では、ゴツゴツとしたリズムにプッシュされ、ここでもテナーが弾け飛びます。
 9曲目は、リーブマンが本作以降も何度か取り上げることになるアルバート・アイラーの"Ghosts"。ベースとドラムが時間をかけてパワフルなデュオで盛り上げて、そこにブチ切れのテナーが登場し渾身のブロウをかます、という感じで、タイトル・チューンにふさわしい本作最大の見せ場を作ります。

 リーブマンのテナーの素晴らしさと合わせて、ベースとドラムの頑張りも本作の大きな魅力です。ジャケットに三人の名前が並記されているように、二人のリズムもしっかり自己主張していて、三人が対等な位置関係でトリオのサウンドを形づくっているという印象を受けます。それに加えて、ゴツゴツと響くベースとドラムの音を生々しく捉えた録音も見事です。このメンバーで三作目に当たる本アルバムでは、三人のコンビネーションが充分に熟成していることが伝わってきます。

 一方、リーブマンがテナーを吹く上記4曲以外のトラックも劣るということは全くありません。オーネット・コールマンの6曲目では木製フルートで、コルトレーンの7曲目ではソプラノで、いずれも幻想的なムードを創り出していて、なかなか聴かせます。ただし2、8曲目でのリーブマンのピアノについてはご愛敬といったところで「あんたにピアノを弾いてくれと頼んだ覚えは全くないんだけれど」・・・彼が時々弾くピアノを聴いていつも心の中で呟いています。
 ラストはサッチモが歌って有名になった(としか私は知りませんが)"What a Wonderful World"をベースとドラムのデュオでしっとりと演奏してアルバムを閉じます。

 上に書いたように、私にとってこのアルバムの宝はLiebmanのキレキレのテナーということになりますが、それだけでなく、素材(選曲)良し、リズム良し、録音良しということで、リーブマンの数ある「単身赴任」アルバム、或いは数あるピアノレス・トリオのアルバムの中でもトップクラスの一枚と言ってよいでしょう。

「World View(1996年録音、Label Bleu)」
Celea Jean-Paul_199604_World View 

「Missing a Page(1998年録音、Label Bleu)」
Celea Jean-Paul_199812_Missing a Page
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sin-sky

Author:sin-sky
半世紀ジャズを聴いている新米高齢者♂です

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